【日本経済新聞社】小水力、流量変動捉える 安定発電、農業コスト圧縮 エリス
2024/11/29
中国地方キラリ企業 自然エネルギー事業のエリス(岡山市)は独自技術で効率を高めた小水力発電で世界の注目を集めている。水路の斜面部分にあたる胸壁や水車の位置を動かし、影響を受ける水の量を柔軟に調整する。流量の変動に強いため年間を通して安定的に発電できる。これまで課題もあった農業用水路などに設置すれば、農業の生産コスト圧縮やIT(情報技術)連携もしやすくなる。
同社の小水力発電は流量が増えると胸壁が水車から離れ、減ると近づくように前後方向に動く。水車を上げ下げする動きと合わせて最適な角度で水が流れるように調節する。従来は水位が上がると水車が沈んで発電効率が落ちていた。水車の羽根の角度や枚数も研究を重ね、流量が変わっても効率的な発電を維持できる。
水車は水の表面をすくうようにして回転する。ゴミは下方をすり抜け、保守管理しやすい利点もある。魚が遡上することも可能で、生態系への影響を抑えられる。
エリスは2001年に創業。20年に発電効率を高めた新型小水力発電の特許を取った。常設の発電機として21年から新潟県内に設置し、12月から売電を始める予定だ。今後も増やしていく方針で「ここからは商売ベースになっていく」(代表取締役の桑原順氏)。
55カ国で特許を取得し、海外からの引き合いも強い。環境意識の高いヨーロッパで需要があるほか、エチオピアなどの新興国のインフラ整備にも乗り出している。
小水力発電は固定価格買い取り制度(FIT)に基づく売電収入が得られる。買い取り価格は太陽光が1㌗時当たり9.2~16円なのに対し、小水力(200㌗未満の場合)が同34円と大幅に高い。
同社の小水力発電設備は約1.5㍍幅でユニットになっている。1ユニットで20㌗の発電をする場合、設置費用は5000万~6000万円になり、10~15年で投資回収が可能という。
小水力発電はダムのような大量の水や大がかりな設備を必要としないため導入コストが比較的安く済む。太陽光や風力と違って気候条件に左右されにくく、長時間安定して発電でき設備効率も高い。
今後は小水力発電を設置した地域の農家などと共同で施設園芸農業の運営にもあたる方針。桑原氏は「高齢化や気候変動で農作物を作る方が大変になっている。もうけようと思ったら高付加価値のものを作らないといけない」と話す。
空調やセンサーなどの電力コストを小水力によって下げられるほか、生産から廃棄までに生じる二酸化炭素(CO²)の排出量を示す「カーボンフットプリント」も抑えられる。あらゆるモノがネットにつながるIoTや人工知能(AI)のノウハウを持った企業とも遠隔監視などの運用で連携する考えだ。
平時には農業者が生産物の生産から加工、販売まで手掛ける6次産業に利用できる。災害による停電時にも活用を見込める。水力エネルギーを地域産業の振興や雇用創出にも役立て、環境負荷の小さいグリーン経済を推進する。(中野颯太)
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